「興亡の世界史『アレクサンドロスの征服と神話』」を読んだ記録

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図書館から「森谷公俊著,興亡の世界史 アレクサンドロスの征服と神話 (講談社学術文庫)(文庫版2016/2)」を借りて読んだ。

買って読みたいところであるが,興亡の世界史シリーズは21巻もある。何が書いてあるのかわからないし,とりあえず,借りてみたというところである。

これは,それを読んだ記録である。

結構時間を要した。それは,知らない時代であるからである。400頁もある知らないことを読むためにはに,それなりに時間を要する。

本書から読み取った要点は,以下の2点である。

[1].アレクサンドロスはギリシャ文明を東方に広めるきっかけを作ったと言われるのであるが,そうであるか?,と,いうこと。

{2].ヘレニズム文化は,東洋に影響したといわれるが,これについてもそうであろうか?,と,いうことである。

では,高校の教科書はどうなっているであろうか?

詳説世界史B 81 世B 304 文部科学省検定済教科書 高等学校 地理歴史科用を基に少し考えてみる。

上記の教科書において,アレクサンドロスに関する記述は,数ヶ所に分散して記述されている。

(1)第1章オリエントと地中海世界 第1節古代オリエント社会 古代オリエントの統一(pp. 23-24):前330年にアケメネス朝ペルシャがアレクサンドロスに滅ぼされた記述がある。

(2)第1章オリエントと地中海世界 第2節ギリシャ文明 ヘレニズム時代(pp. 35-36):アレクサンドロスの遠征とその後のヘレニズム時代の記述である。ここで,重要なことは,以下の2点である。

・アレクサンドロス大王は,これまでのギリシャ諸国の争いにたびたび干渉してきたペルシアをうつため(中略),東方遠征に出発した。

・大王の東方遠征から,もっとも長く存続したプトレマイオス朝エジプトの滅亡(前30年)までの300年間を,ヘレニズム時代と呼ぶ。

(3)第2章アジア・アメリカの古代文明 第1節インドの古典文明 統一国家の成立(p.56):アレクサンドロスがインダス川まで到達し,各地にギリシャ政権が誕生した。しかし,マウリヤ朝のチャンドラグプタ王(在位前317〜前296)はインドからギリシャ勢力を一掃した,と,記述している。

(4)第2章アジア・アメリカの古代文明 第1節インドの古典文明 クシャーナ朝と大乗仏教(p.57-58):紀元後1〜3世紀のクシャーナ朝は「ヘレニズム文化の影響」を受け,ガンダーラ美術を発展させたとしている。

ここで,留意すべきは,マウリヤ朝成立からクシャーナ朝までの間に300年以上の時間があることである。

さて,興亡の世界史 アレクサンドロスの征服と神話 (講談社学術文庫)に戻ろう。

著者は,上記の世界史の記述に対して,以下のように記述する。

19世紀以降の欧州におけるアレクサンドロス像として,

「こうして世界帝国,東西融合,人類同胞などといった高邁な目的と理念がアレクサンドロスに与えられ,大理想の実現に邁進し志半ばで倒れた若き天才という英雄的イメージが創造されたのである」(同書 p. 41)。

これは,ギリシャ文明がペルシアをはじめとする東洋文明に対して優位にあるという世界観に基づく。この考え方は,日本の高校教科書に影響しているため,「東方遠征」と記述されている。しかし,著者は,「征服」であったしているのである。

アレクサンドロスの父であるマケドニアのフィリッポ二世の時代まで,ギリシャ諸国は,ペルシアに巧みに操られていた。戦争の資金援助さえ頼っている。すなわち,紀元前4世紀前半においては,ペルシアの方がギリシャに優っていたのである。

そのことを著者は,アレクサンドロスがアケメネス朝を滅ぼした後に,ペルシア式の装束や儀式を導入したということにも示している。アレクサンドロスがギリシャ文明が,東洋(ペルシア)よりも優れいると真に思っていれば,現代のアメリカのように自国の文化を広めることに力を注いだであろう。しかし,実際には,そうではなかったらしい。

アケメネス朝ペルシアの領土は広大である。東はインド西部(インダス川)から今のイラン,イラク,シリア,トルコ,エジプトにまで及んでいる。アケメネス朝ペルシアはすでにミドルワールド(イスラームから見た「世界史」参照)に広大な帝国をすでに築き上げていたことになる。

欧州人の多くの人にとって,キリスト教とギリシャ文明は,いわゆるアイデンティティを構成する重要な要素であろう。ギリシャ文明は,古代文明の中でも特に優れていた,と,考えられることは,好ましいに違いない。

そして,現代を支配している日本を除くG7といわれる6カ国はそのアイデンティティを共有しているであろう。しかし,今,彼らが闘っているイラクやシリアにあった古代文明の方が優れていたとしたら,どう思うのであろうか?

このことを著者は『東方蔑視の眼差し』(同書pp. 325-327)において,以下のようにまとめる。

「それではヘレニズムの概念自体を今後どのようにすればいいのか。一つの方法は,この言葉を純粋に時代区分の概念として,価値中立的に用いることである」。

ギリシャ文明が優れていたとか,オリエントは劣っていたとかいう価値判断にヘレニズムという言葉を使うべきではないと主張している。この考え方には,大いに賛同できる。

よって,上記の[1]にあげた要点は,「否」なのである。

一方,{2]の方は容易に「否」である。インドのギリシャ人は,マウリヤ朝によって一掃されているし,クシャナ朝はプトレマイオス朝エジプトが滅んでからである。よくいわれるガンダーラ仏教美術は「ヘレニズム文化の影響」であるということを,著者は明確に否定し,ローマとの交易の影響であるとする(同書 p.328)。

なお,西洋人の間での,西洋優越論は,根深いらしく,以下のような本がある。

この本は読んで,非常に落胆した本である(ブログ過去記事:『人類5万年 文明の興亡〜なぜ西洋が世界を支配しているのかー』を読んだ記録)。なぜ,落胆したかは,過去記事に書いてある。

しかし,今,シリアやイラクや北アフリカで起きている悲劇を思うと,彼の地での古代からの悲劇の数々をも思わずにはいられない。また,悲劇が増え続けていると。

 

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